
技術者が起業する前に準備すべきこと
技術者の起業は、プロダクトを作る力という大きな武器を最初から持っています。しかし、創業後につまずくポイントは技術以外のところに集中しています。この記事では、研究の世界で「創業の成否に効く」とされている観点に沿って、起業前に準備しておきたいことを整理します。
準備①: 自分の「人的資本」を棚卸しする
創業の成否に影響する要素として、まず挙げられるのがアントレプレナー自身の人的資本——つまり、これまでに蓄積してきた経験・知識・スキルです。技術力はその中核ですが、それだけではありません。業界の商習慣の理解、マネジメント経験、過去の創業経験なども含まれます。
棚卸しのポイントは、「持っているもの」と同時に「欠けているもの」を書き出すことです。営業経験がない、経理が分からない、業界外の人脈がない——欠けはあって当然です。重要なのは、欠けを自覚した上で、学ぶのか、人に任せるのか、共同創業者を探すのかを決めておくことです。
準備②: 「社会的資本」——人のつながりを先に耕す
もう1つの重要な資本が、社会的資本——人とのつながりです。最初の顧客、最初の協力者、資金の出し手、相談相手。創業後に必要になるこれらの縁は、創業後に慌てて探すより、創業前から耕しておくほうが圧倒的に有利です。
技術者の場合、社内と業界内に閉じた人脈になりがちです。起業を考え始めたら、コワーキングスペースや起業家コミュニティ、ピッチイベントといった「越境の場」に顔を出しておきましょう。九州・山口であれば、スタートアップ支援拠点や産業イベントが接点になります。そこで得た縁は、資金や情報だけでなく、「先に同じ道を歩いた人の失敗談」という最も安い授業料をもたらしてくれます。
準備③: 機会費用を直視して「やめる基準」も決める
起業の意思決定で見落とされがちなのが機会費用です。起業するということは、いまの職を続けていれば得られたはずの収入やキャリアを差し出すということです。この費用を直視せずに飛び込むと、うまくいかない時期に「いくら失い続けているのか」が分からず、ずるずると消耗します。
おすすめは、始める前に「いつまでに・何が達成できなければ撤退する」という基準を決めておくことです。撤退基準は弱気の表れではありません。むしろ基準があるからこそ、期限までは迷わず全力を出せます。
在職中にできる「小さな検証」を始める
3つの準備と並行して、在職中だからこそできることがあります。事業仮説の小さな検証です。
退職して背水の陣を敷いてから検証を始めるのは、実はリスクの高い順序です。収入がある間に、想定顧客への聞き取り、簡単な試作、勉強会での反応集めといった「お金のかからない検証」を進めておけば、退職の判断そのものを検証結果に基づいて下せます。手応えがなければ仮説を作り直せばよく、失うものはありません。
なお、就業規則の副業・競業の規定は事前に確認してください。所属先との信頼関係を損なう形での準備は、社会的資本を耕すどころか毀損します。堂々と進められる範囲で検証し、必要なら上司や会社に相談する。誠実な準備は、退職後も続く縁を残してくれます。
まとめ
技術者の起業準備とは、技術を磨くことではなく、①人的資本の棚卸し(欠けの自覚)、②社会的資本の耕し(越境の縁づくり)、③機会費用の直視(撤退基準の設定)です。プロダクトはあなたが作れます。だからこそ、準備の時間は「技術以外」に投資してください。
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